瀧澤利夫以外の職人の厳選した作品を紹介するページです。
職人によって異なる作品の世界観をお楽しみください。
村田利勝氏が江戸切子の世界へ足を踏み入れたのは1958年、瀧澤利夫が修行を初めた5年後のことである。
偶然にも同じ長野県の生まれ、二人は兄弟弟子として苦楽を共にしながら修行に励み、
1965年に瀧澤利夫が、1971年に村田氏が独立を果たし、職人としてそれぞれの道を歩んで来た。
独立後、村田氏はガラス問屋からの注文で江戸切子を製作するかたわら、独自の世界観で作品を生み出し、各地で個展を開くなどの活動を行っている。
1993年には二人の故郷である長野県の信州新町美術館において共同で江戸切子展を開催するなど、独立後も二人の交流は続いている。
江戸切子の最終工程、作品の輝きを決める「磨き」、
現在はクリスタルガラス素材に酸磨きを用いる方法が主流になっているが、
村田氏の作品にはソーダガラス素材を「手磨き」で仕上げた物が多い。
キラキラとした煌めきが美しい、瀧澤利夫が手がけるクリスタルガラスの江戸切子、
手仕事による素朴な輝きが伝統を感じさせる、村田氏が手がけるソーダガラスの江戸切子、
それぞれ異なる美しさの作品を、好みに応じた作品を選んでいただきたい。
グラス側面から底に向かう平なカットを袴紋という。村田氏の作品には大胆に幅広の袴紋をカットした作品が多く見られる。
一見シンプルに見えるこの紋様のカットには実は高い技術が必要とされる。
袴紋の幅が狭ければ削る量が少ないため微調整がしやすい。
しかし幅が広い場合、面を平らにするにはより多くのカットしなければならないため、カットの角度が少しでも狂うと幅が不揃いになったり、グラスに穴を空けてしまうリスクがある。
一気に削り出しながらも、角度や幅を正確にカットする、大胆で精巧な技によって生まれるのである。
敢えて難しいカットをするのは何故か?
その答えはグラスを覗きこんだ時に分かる。
グラスの底に1つだけカットした花の模様を上から覗くと、光の屈折によって複数の花模様が浮かび上がってくる。
グラスの内側だけに広がる花の模様は幅広の袴紋だからこそ表現できる職人の遊び心によって生まれた隠された魅力なのである。
瀧澤利夫は村田氏の作品を「売り物にならない」と表する。
もちろんこれは悪い意味で言っているのではない。
幅広の袴紋、手磨きによる仕上げなど手間を惜しまず作品を創るため量産ができず、
売り物として安定的に供給できないという意味が込められている。
「納得できる作品を自分のペースで創りたい」という言葉が物語るよう
村田氏オリジナルの作品は数が少なく今まであまり世に出回っていなかったが、
瀧澤利夫の弟弟子という縁で今回特別に協力を得ることができた。
最後まで手作りにこだわり「売り物にならない」ほど手のこんだ江戸切子を
是非この機会に手に取っていただきたい。